モビリティシェアリングで変わる地方創生:過疎地域の交通課題を解決する新しいアプローチ
地方の交通課題とモビリティシェアの可能性
日本の地方では、人口減少と高齢化が進む中で、路線バスの廃止や公共交通の空白地帯が広がっています。特に過疎地域では、移動手段の確保が深刻な社会課題となっており、買い物や通院などの日常生活にも支障をきたす「交通弱者」が増え続けています。
こうした状況の中で注目されているのが、モビリティシェアリングを活用した地域交通の再構築です。都市部で普及してきたカーシェアやライドシェアの仕組みを、地方の実情に合わせて導入することで、持続可能な地域交通の実現を目指す取り組みが各地で始まっています。
地方が抱える交通課題の実態
まずは、地方の交通が直面している課題を整理してみましょう。
公共交通の撤退と空白地帯の拡大
国土交通省の調査によると、2000年から2020年の20年間で、地方の路線バスは約2割が廃止されました。鉄道も同様に、不採算路線の廃線が相次いでいます。その結果、公共交通の空白地帯が拡大し、移動手段を持たない高齢者や学生が孤立するリスクが高まっています。
- 路線バスの廃止:利用者減少により採算が取れず、次々と路線が廃止
- タクシー不足:運転手不足でタクシーも利用しにくい状況
- マイカー依存:自家用車を持たない人の移動が困難に
高齢化と免許返納の課題
高齢ドライバーによる交通事故が社会問題化する中、免許返納を促す動きが広がっていますが、代替となる移動手段がない地域では、免許返納が生活の質の低下に直結してしまいます。
交通弱者の増加:
2025年現在、65歳以上の高齢者人口は全体の約30%に達し、その多くが地方に居住しています。免許返納後の移動手段の確保は、地域の喫緊の課題となっています。
(出典:内閣府「高齢社会白書」)
モビリティシェアによる解決策
こうした地方の交通課題に対して、モビリティシェアリングを活用した新しいアプローチが効果を上げ始めています。
デマンド交通・オンデマンドバスの導入
デマンド交通(予約型乗合交通)は、利用者の予約に応じて運行する柔軟な交通手段です。固定ルートのバスと違い、需要に応じて運行するため、効率的な運営が可能になります。
最近では、スマートフォンアプリで簡単に予約できるオンデマンドバスのサービスも登場。AIが最適なルートを計算し、複数の乗客を効率的に目的地まで運びます。
【事例1】山梨県富士吉田市「のるーと」
トヨタ自動車が展開するオンデマンド交通「のるーと」を導入。スマホアプリで簡単に予約でき、高齢者の外出機会が増加。運行効率も向上し、自治体の交通コストの削減にも成功しました。
コミュニティカーシェア
地域住民が共同で車両を所有・利用するコミュニティカーシェアも、地方で注目されています。NPOや自治会が運営主体となり、都市部の商業的なカーシェアとは異なる、地域に根ざした運営が特徴です。
- 低コスト:商業サービスより安価に利用できる
- 地域の絆:住民同士の助け合いの精神が生まれる
- 柔軟な運用:地域のニーズに合わせた柔軟な運用が可能
【事例2】島根県雲南市「おたすけカーシェア」
地域住民が運営するコミュニティカーシェア。高齢者の通院や買い物を支援するため、予約制で車両を共有。地域のボランティアが運営を支え、持続可能な仕組みを構築しています。
EVを活用した環境配慮型シェアリング
電気自動車(EV)を活用したモビリティシェアも、地方創生の新しい選択肢として注目されています。再生可能エネルギーと組み合わせることで、環境負荷を抑えた持続可能な地域交通の実現が可能です。
【事例3】福島県飯舘村「EVカーシェア」
太陽光発電で充電するEVカーシェアを導入。災害時には非常用電源としても活用でき、地域のレジリエンス向上にも貢献。村の魅力発信にもつながっています。
成功のポイント:地域に根ざした運営
地方でモビリティシェアを成功させるには、都市部とは異なる視点が必要です。
地域のニーズを丁重に把握
通院、買い物、学校への送迎など、地域住民が本当に必要としている移動ニーズを正確に把握することが第一歩です。住民アンケートやヒアリングを通じて、きめ細かなニーズ調査を行いましょう。
多様なステークホルダーの連携
自治体、交通事業者、NPO、地域住民など、多様な主体が連携することが重要です。特に、地域のキーパーソンを巻き込むことで、持続可能な運営体制を構築できます。
- 自治体:財政支援、制度設計、広報活動
- 交通事業者:運行ノウハウ、車両提供
- 地域住民:利用促進、運営参加
- 企業:技術提供、スポンサーシップ
デジタルデバイドへの配慮
高齢者がスマホアプリを使いこなせない場合も多いため、電話予約や窓口対応など、アナログな手段も併用することが大切です。デジタルとアナログの両立が、地方でのモビリティシェア成功のカギとなります。
政策支援と今後の展望
国や自治体も、地方の交通課題解決に向けた支援を強化しています。
国の支援策
国土交通省は「地域公共交通活性化再生法」を改正し、自治体によるモビリティシェアの導入を後押ししています。また、デジタル田園都市国家構想の一環として、地方のMaaS実証実験への補助金も拡充されています。
今後の展望
今後は、自動運転技術の進展により、運転手不足の問題も解決に向かうと期待されています。すでに、自動運転バスの実証実験が各地で始まっており、将来的には無人のシェアカーが地方を走る日も近いかもしれません。
また、MaaSプラットフォームの普及により、複数の交通手段をシームレスに利用できる環境が整えば、地方でも都市部と同じような利便性が実現できるでしょう。
まとめ:モビリティシェアが拓く地方の未来
モビリティシェアリングは、地方の交通課題を解決し、持続可能な地域社会を実現するための有力な手段です。デマンド交通、コミュニティカーシェア、EVシェアリングなど、さまざまな形態のモビリティシェアが、地域の実情に合わせて展開されています。
成功のポイントは、地域のニーズをしっかり把握し、多様なステークホルダーが連携して取り組むこと。そして、デジタル技術を活用しつつも、デジタルデバイドへの配慮を忘れないことです。
これからの地方創生において、モビリティシェアは欠かせない要素となるでしょう。当サイトでも引き続き、地方のモビリティシェアの最新動向をお伝えしていきます。
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